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青森地方裁判所 昭和54年(ワ)146号 判決 1985年4月16日

原告・反訴被告・参加甲被告・参加乙被告 大達産業株式会社

被告・反訴原告・参加甲被告・参加乙被告 国

代理人 佐藤崇 長谷川逸雄 古川則男 渡辺義雄 ほか七名

反訴被告 斉藤イキノ

参加甲原告・参加乙被告 田口咲子

参加乙原告 沢田恭助

主文

一  原告会社の本訴請求を棄却する。

二  被告国と原告会社、反訴被告斉藤との間において、別紙目録(二)記載の土地について被告国が所有権を有することを確認する。

三  参加被告田口の参加請求をいずれも棄却する。

四  参加原告沢田の本件参加の訴を却下する。

五  訴訟費用は本訴について生じた部分は原告会社の、反訴について生じた部分は原告会社及び反訴被告斉藤の、参加甲事件について生じた部分は参加被告田口の、参加乙事件について生じた部分は参加原告沢田の、各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴について)

一  請求の趣旨

1 原告会社と被告国との間において、別紙目録(一)記載の各土地について原告会社が所有権を有することを確認する。

2 訴訟費用は被告国の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文第一、第五項同旨。

(反訴について)

一  請求の趣旨

主文第二、第五項同旨。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告国の原告会社、反訴被告斉藤に対する請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は被告国の負担とする。

(参加甲について)

一  請求の趣旨

1 参加被告田口と原告会社、被告国との間において、別紙目録(一)記載の各土地について参加被告田口が所有権を有することを確認する。

2 原告会社は参加被告田口に対し、別紙目録(一)記載の各土地について青森地方法務局大間出張所昭和五〇年一二月八日受付第一八三七号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

3 訴訟費用は原告会社及び被告国の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告会社

(一) 主文第三項同旨。

(二) 訴訟費用は参加被告田口の負担とする。

2 被告国

主文第三、第五項同旨。

(参加乙について)

一  請求の趣旨

1 参加原告沢田と原告会社、被告国、参加被告田口の間において、別紙目録(一)記載の各土地及び右土地上の立木について参加原告沢田が所有権を有することを確認する。

2 訴訟費用は原告会社、被告国、参加被告田口の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(原告会社、被告国、参加被告田口)

1 参加原告沢田の請求を棄却する。

2 訴訟費用は参加原告沢田の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴について)

一  請求原因

1 原告会社は別紙目録(一)記載の各土地(以下本訴係争地という)を所有している。

2 しかるに、被告国はこれを争い、本訴係争地は被告国が所有し、佐井営林署長が国有財産法三条二項四号の企業用財産として管理している下北郡佐井村大字長後所在の縫道石国有林一二七林班の一部であると主張している。

3 本訴係争地は次の(一)ないし(三)のとおり下北郡佐井村大字長後宇牛滝川目一三〇番三及び同番四の土地である(以下一三〇番三及び同番四の土地を含む一三〇番一ないし四の各土地を一三〇番土地という)。

(一) 公図を現地にあてはめた場合、本訴係争地は一三〇番三及び同番四の土地であると認められる。

公図はその作成の沿革、経緯等からして単に見取図程度のものといえども、土地の位置、地番等については相当の正確性を有するというべきところ、青森地方法務局大間出張所備付の公図<証拠略>、佐井村役場保管にかかる長後村全図<証拠略>と現地における本訴係争地の位置とを対比すると、本訴係争地が一三〇番三及び同番四の土地に該ることが明らかになる。すなわち、現地において本訴係争地の東側には石山沢という名称の沢が存在するところ、右公図上一三〇番土地の東側にも沢が存在する旨の記載がある。公図上右沢の名称は記載されていないが、現地における牛滝川河口から石山沢までの方位、距離(牛滝川河口より方位S四五度五〇分EないしS四四度四〇分Eの間で、直線距離にして二二七五メートルないし二三一五メートル)と右公図に記載された牛滝川河口から右沢までの方位、距離(牛滝川河口より方位S三一度三〇分EないしS三二度三〇分の間で、直線距離にして二三七〇メートルないし二四五七メートル)はほとんど一致するから、右公図に記載された右沢は石山沢であるというべきである。従つて、石山沢の西側に所在する本訴係争地は一三〇番三及び同番四の土地である。

(二) 一三〇番土地の元の所有者である坂井弘(坂井源八の相続人)が本訴係争地は一三〇番三及び同番四の土地であると指示したこと。

(三) 本訴係地付近の住民が本訴係争地は、元坂井源八が所有していた一三〇番三及び同番四の土地であると明言していること。

よつて、原告会社は被告国との間で本訴係争地につき原告会社が所有権を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1のうち、一三〇番三及び同番四の土地につき原告会社が所有権移転登記を経由していることは認めるが、本訴係争地が一三〇番三及び同番四の土地であることは否認する。

2 同2の事実は認める。

3 同3の事実はいずれも否認する。

三  被告国の主張

本訴係争地は、次のとおり被告国が所有し、佐井営林署長が国有財産法三条二項四号の企業用財産として管理している下北郡佐井村大字長後所在の縫道石国有林一二七林班の一部である。

1 土地の官民有区分による被告国の所有権の確立

本訴係争地を含む青森県下北郡佐井村大字長後字縫道石一番の一縫道石国有林は、明治初年に実施された土地の官民有区分により官有地に編入された時点において被告国の所有権が確立された。すなわち、政府は明治五年から明治一四年にかけて地租改正事業を実施し地租改正のために土地の官民有区分を行つたが、山林原野の官民有区分も右事業の一環として、明治七年以降に実施され、青森県においては、明治七年一一月に着手され、明治一〇年五月に終了している。そして、同県下北郡佐井村大字長後(当時は同郡長後村であつた)のうちの山林中、

(ア) 字牛滝川目一三五番 一六二〇町(当時の国有林名大利家戸山)

(イ) 同所一三七番     七二〇町(右同石山)

(ウ) 同所一四一番     八六四町(右同小荒川山)

(エ) 同所一四二番    一二九六町(右同縫道石山)

(オ) 同所一四三番    一二九六町(右同大荒川山)

(カ) 字野平五一番     一〇〇町

(キ) 字牛滝屋敷裏二九番   五反歩

も、明治七年から明治九年の間に官民有区分によつて官有地と決定され、青森県の管理するところとなつたが、明治一九年四月一八日勅令第一八号大小林区署官制が制定され、これが施行されるや、青森大林区署(大正一三年一二月二〇日官制改正により大林区署は営林局に、小林区署は営林署となる)の管理に移された。

青森大林区署においては、国有林野の経営管理の必要上明治四〇年に右国有林について初めて施業案を編成して以来右国有林を管理経営し現在に至つている。なお、大正八年五月一日右(ア)ないし(キ)の山林及び原野を一括して縫道石国有林一番の一と命名した。

本訴係争地たる縫道石国有林一二七林班は、同国有林のうち右(イ)旧国有林名石山の部分にほぼ該当し、また原告会社主張の一三〇番三及び同番四の土地は、右(ア)旧国有林名大利家戸山の中に介在するものである。

2 縫道石国有林についての境界査定処分

ところで、前記土地官民有区分により、官有と決定した山林原野とこれに隣接する民有地との境界を調査し確定する必要があつたことから、青森大林区署長は同署国有林野境界査定官吏山林局書記大平虎之助をして佐井小林区署管内の国有林野の境界査定を行わしめたが、同査定官吏は、明治三六年一二月旧国有林野法、同法施行規則及び国有林野境界査定手続の各定めるところに則り、縫道石国有林に隣接又は介在する各民有地の所有者に境界査定立会通告書を発して現地立会を求め、その立会のもとに現地に査定境界点を設けて境界を査定した(以下本件境界査定処分という)。そして、査定した境界に境界標を設置して、これを現地において明確にするとともに、右境界査定における成果、すなわち査定境界点の番号、位置(次の境界点との方位角と距離をもつて表わす)、設置境界標識の種類、隣接民有地の地籍、現況、所有者又は管理者、査定にあたつての現地立会人の氏名等を国有林境界査定簿に登載し、さらに境界査定の結果を測量して境界査定図を作成し、これらの原本を青森大林区署に備付けるとともに、その副本を佐井小林区署に備付けたうえ、境界査定通告書を各隣接(介在)民有地の所有者に送達して査定の結果を通告した。

右境界査定の結果の通告を受けた各隣接民有地の所有者からは、法定の六〇日の期間内に行政裁判所に対して右査定についての不服の訴が提起されなかつたため、ここに縫道石国有林とその接隣民有地との境界は適法に確定した。

ところで、境界査定処分は官有林地と隣接する民有地との境界を調査するだけでなく、その調査により両地の境界を確定し、官の所有に属する土地の区域を決定することを目的とする行政処分であるから、右処分が確定した以上官有地と民有地の境界は査定線のとおり確定し、もはや査定線を越えてその所有を争うことはできないと解すべきである。従つて一三〇番及び同番四の土地についても本件境界査定処分により縫道石国有林との境界が確定した以上、<証拠略>(縫道石国有林境界査定簿)並びにこれによつて作図された<証拠略>によつて一三〇番三及び同番四の土地と特定される以外の本訴係争地をもつて一三〇番三及び同番四の土地であるとする原告会社の主張は許されないものというべきである。

3 本件境界査定処分後の本訴係争地の経営管理の状況

国有林野の経営については、明治三五年四月農商務省訓令第六号「国有林施業案編成規程」に基づいて各事業区ごとに施業案を編成し、これによつて実行するものとされていだが、縫道石国有林を含む佐井事業区については、明治四〇年青森大林区署がその実行期間を同四一年から大正二年までの六か年として施業案を編成した。その後関係規程の変遷はあつたが、今日までこれらに基づいて実地調査をなし、森林経営の基本業務である施業案(地域施業計画)を編成したうえ、各種の国有林野事業を実行してきたものであり、これに対しては何人からも異議を受けたことはなかつた。

ところで、本訴係争地たる縫道石国有林一二七林班は、前記明治四〇年の施業案編成に際し、広大なる森林の施業に便ならしめるように区画して施業する必要から、河川、峰、谷等の天然界をもつて区画した林班で、その区画内の地形等は<証拠略>のとおり実地測量して把握しており、その区画は現在まで変更がなく、その周囲に隣接する民有地はなく、かつてその一部が拡下げられて内部に民有地を生じた事実もない。

また被告国は、右施業案に基づき、係争地である一二七林班についても、立木処分(立木の状態で地元部落民や製材業者等に売拡うこと)したり、或いは直営生産事業(古くは斫伐事業と称し、営林署が直営で伐採して丸太や薪を生産し、売払いする土場等に搬出のうえ堆積する事業)を行つてきたものであり、その間誤伐や盗伐、山火事の防止のため、佐井営林署職員や牛滝担当区主任並びに同作業員をして、日夜巡視させる等して管理してきたところであり、いまだかつて何人も本訴係争地を自己所有地なりとして支配管理したものはない。

なお、一三〇番土地の元の所有者であつた坂井源八及びその相続人である坂井三郎は、本訴係争地を含む縫道石国有林について、青森営林局長と簡易共用林野の設定契約を締結するなど本訴係争地が国有林であることを認めていた。

四  被告国の主張に対する認否

被告国の主張は争う。

もつとも、明治三六年大平虎之助により本件境界査定処分がなされたことは認めるが、右処分は次のとおり重大明白な瑕疵があつて無効である。すなわち、

1 境界査定処分の目的は、国有林とこれに隣接している民有地との境界を明らかにし、それを確定することによつて国の所有に属する土地の区域を決定することにあるのであつて、民有地の位置を決定したり、あるいは新たな地番を設定したりすることを目的とするものではない。

ところで、本件境界査定処分に際し青森大林区署長は、本訴係争地が一三〇番三及び同番四の土地であるにもかかわらず、一三〇番及び同番四の土地が他の位置にあるとして、結果的に右土地を本訴係争地から他の位置に移動せしめたうえで境界査定処分を行つた。

これは、境界査定処分の本来の目的を逸脱するばかりでなく、青森大林区署長の権限外の行為として、あるいは効力の発生不能な行政行為として、重大明白な瑕疵があり無効である。

2 境界査定処分に際しては規程上境界判定の資料として公図等に基づかなければならないとされていたのに、本件境界査定処分に際しては公図等の資料に基づくことなく、査定官吏が恣意的になしたものであるから無効である。

3 本件境界査定処分に際しては、法令上必要とされていた当時の一三〇番土地の所有者坂井源八に対する事前の書面による立会通告がなかつただけでなく、源八及びその代理人の現地立会もなかつた。また源八に対しては境界査定終了の通知もなされなかつた。これらの瑕疾は重大明白なものであつて、本件境界査定処分は無効である。

(反訴について)

一  請求原因

1 被告国は別紙目録(二)記載の土地(以下反訴係争地という)を所有している。

2 しかるに、原告会社及び反訴被告斉藤は反訴係争地は原告会社らが所有する一三〇番土地であるとして被告国の所有を争つている。

3 反訴係争地が被告国が所有する縫道石国有林一二七林班であることについての主張は、本訴における「三 被告国の主張」欄記載のとおりであるからこれを引用する。

よつて、被告国は原告会社及び反訴被告斉藤との間において、反訴係争地につき被告国が所有権を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

(原告会社、反訴被告斉藤)

1 請求原因1の事実は否認する。

2 同2の事実は認める。

3 同3の事実は否認する。反訴係争地が一三〇番土地であることについての主張は、本訴における原告会社の主張と同一であるからこれを引用する。

(参加甲について)

一  請求原因

1 一三〇番三及び同番四の土地は、元坂井弘が所有していた。

2 参加被告田口は昭和五〇年四月二五日坂井弘から右土地を代金五〇〇〇万円で買受けた。

3 本訴係争地は一三〇番三及び同番四の土地であるところ、原告会社は右土地について所有権を有すると主張し、被告国は本訴係争地は同被告が所有する縫道石国有林一二七林班の一部であると主張し、いずれも右土地に対する参加被告田口の所有を争つている。

また、原告会社は一三〇番三及び同番四の土地について、青森地方法務局大間出張所昭和五〇年一二月八日受付第一八三七号の所有権移転登記を経由している。

よつて、参加被告田口は原告会社及び被告国との間において本訴係争地につき参加被告田口が所有権を有することの確認と、原告会社に対し本訴係争地の所有権に基づき右所有権移転登記の抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

1 原告会社

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は否認する。

(三) 同3の事実は認める。

2 被告国

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は知らない。

(三) 同3のうち、本訴係争地が一三〇番三及び同番四の土地であることは否認し、被告国が本訴係争地を縫道石国有林一二七林班の一部であると主張していることは認める。

(参加乙について)

一  請求原因

1 参加原告沢田は、もと一三〇番三及び同番四の土地並びにその地上立木を所有していた。

2 本訴係争地は一三〇番三及び同番四の土地であるところ、原告会社及び参加被告田口は右土地及び地上立木について所有権を有すると主張し、被告国は本訴係争地は同被告が有する縫道石国有林一二七林班の一部であると主張し、いずれも右土地及び地上立木に対する参加原告沢田の所有権を争つている。

よつて、参加原告沢田は原告会社、被告国、参加被告田口との間において、本訴係争地及びその地上立木について参加原告沢田が所有権を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1 原告会社

請求原因事実はすべて認める。

2 被告国

(一) 請求原因1の事実は知らない。

(二) 同2のうち、本訴係争地が一三〇番三及び同番四の土地であることは否認し、被告国が本訴係争地は縫道石国有林一二七林班の一部であると主張していることは認める。

3 参加被告田口

(一) 請求原因1の事実は初め認めたが、それは真実に反する陳述で錯誤に基づくものであるから、自白を撤回し否認する。

(二) 同2の事実は認める。

三  参加被告田口の自白の撤回に対する参加原告沢田の異議参加被告田口の自白の撤回には異議がある。

四  原告会社の抗弁

1 参加原告沢田は昭和四四年一二月三〇日一三〇番三土地及び地上立木を菅野忠夫に売渡した。

右菅野は昭和五〇年六月二六日右土地及び地上立木を原告会社に売渡した。

2 参加原告沢田は昭和四三年八月二六日一三〇番四土地及び地上立木を藤村孜に売渡した。

右藤村は昭和五〇年八月二七日右土地及び地上立木を原告会社に売渡した。

五  原告会社の抗弁に対する認否

1 抗弁1のうち、参加原告沢田が一三〇番三土地及び地上立木を菅野忠夫に売渡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

2 同2のうち、参加原告沢田が一三〇番四土地及び地上立木を藤村孜に売渡したことは否認し、その余の事実は知らない。

六  再抗弁

参加原告沢田は昭和五〇年六月二六日一三〇番三土地及び地上立木を菅野忠夫から買戻した。

七  再抗弁に対する認否

(原告会社)

再抗弁事実は否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一原告会社の本訴請求、被告国の反訴請求および参加被告田口の参加請求について

一  本件各訴訟の主たる争点は、本訴係争地(反訴係争地)が原告会社ら主張の下北郡佐井村大字長後字牛滝川目一三〇番三及び同番四(あるいは右土地を含む牛滝川目一三〇番一ないし四)の土地か、被告国主張の同所所在縫道石国有林一二七林班かということにある(なお、弁論の全趣旨によると本訴係争地を含む原告会社ら主張の一三〇番土地と、反訴係争地とはその位置、範囲が完全には一致しないもののほとんど一致するものと認められるから、以下の記述においては便宜上、本訴係争地を含む原告会社ら主張の一三〇番土地と反訴係争地とを総称して本件土地ということにする)。以下この点について判断する。

二  本件土地の位置、形状等について

<証拠略>によると、本件土地は青森県下北郡佐井村牛滝部落の南東方面にある広大な山林であり、ほぼ全域が東向の斜面となつていて、主として、ひば、ぶな等の広葉樹が生育する天然の森林で、牛滝川と石山沢の合流点(牛滝川河口から国道三三八号線に沿つて約二・七キロメートルの地点)の南方に位置し、その東側は石山沢、西側は小荒川山界の尾根をもつて隣接地との境界をなしていることが認められ、これに反する証拠はない。

三  本件土地の菅理の経緯等

<証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

1  青森県下北郡佐井村大字長後に所在する山林のうち、字牛滝川目一三五番一六二〇町歩(当時の国有林名大利家戸山)、同所一三七番七二〇町歩(当時の国有林名石山)など七筆の山林は、明治九年ころ実施された地租改正に伴う土地官民有区分により官有地に編入され、当初青森県により管理されていたが、明治一九年大小林区署官制が施行されるに伴い青森大林区署(大正一三年青森営林局となる)管下佐井小林区署(同佐井営林署となる)の管理に移され、以後同小林区署に管理されるに至つた。

そして、明治三六年ころ右国有林とこれに隣接又は介在する民有地との境界査定が青森大林区署境界査定官吏山林局書記大平虎之助により右各民有地所有者等の立会のうえで実施されたが、その成果である査定境界点の番号、位置、設置境界標識の種類、隣接民有地の地番、地目、現況、所有者又は管理者の氏名等は国有林境界査定簿(<証拠略>)に登載され、また測量に基づき国有林査定全図(<証拠略>)、国有林境界査定図(<証拠略>)が作成された。右境界査定処分は右各民有地所有者等からの不服申立もなく適法に確定したが、右処分によつて本件土地は旧石山国有林に含まれ、他方、原告会社ら主張の一三〇番土地は旧大利家戸国有林に介在することが明らかにされた(明治三六年に本件境界査定処分がなされたことは、原告会社、反訴被告斉藤と被告国との間では争いがない)。

2  その後青森大林区署は本件土地を含む前記七筆の国有林を一括して縫道石国有林と称するようになつた。そして、右国有林は河川、峰、谷等の天然界をもつて区画された多くの林班に分けられたが、その後現在に至るまで本訴係争地は縫道石国有林一二七林班として佐井小林区署及び名称変更後の佐井営林署によつて引続き管理されてきた。

すなわち、前記境界査定後佐井小林区署及び改称後の佐井営林署は、右国有林の経営管理のための施業案(地域施業計画)を編成することに右国有林内の各小班の面積を実測したり、地況、林況等を調査するなどして常に本件土地を含む右国有林の実情を把握してきたことを初めとして、地元部落民に対し部分林(杉の植栽を許してその収益を原告と植栽者で分収するもの)や簡易共用林野(落葉、落枝、きのこ類、山菜等を無償で採取することを許すもの)を設定し、あるいは地上のひば等の立木の伐採、造林事業を実施するなどして林野の管理と生産事業を行つてきた。

3  この間、昭和三五年六月に中西幸一が一三〇番土地の元の所有者であつた坂井源八(襲名前の良吉)から分筆後の一三〇番三及び同番四の各土地を買受けた以降同土地とかかわりを持つようになつた工藤晃、あるいは原告会社らが本件土地を一三〇番土地であると主張するようになつたことはあつたが、これを除いては右源八及び先代源八をはじめとして本件土地が民有地であると主張した者はいなかつた。ことに右源八は昭和二九年以降数次にわたり牛滝部落民の一人として青森営林局長との間で国有林に存在するきのこ、山菜、木の実等を採取する簡易共用林野設定契約を締結しているが、右契約書には本件土地を国有林であると表示する図面が添付されていたのに、同人はこれに対し何らの異議を述べておらず、本件土地を国有林であると認識していたものと考えられる。

なお、本件土地付近に所在する字牛滝川目一二六番、一二七番、一三二番、一四〇番等の各民有地については、その所有者と被告国との間で前記明治三六年の境界査定の結果確定した右各民有地の位置及び境界をめぐつて紛議の生じたことはなく、その所有関係は全く安定している。

以上の事実が認められる。

以上認定の本件土地に対する管理の沿革、経緯等に照らすと、本件土地は被告国所有の縫道石国有林一二七林班であると推認される。

なお、原告会社らは、本件境界査定処分に際しては当時の一三〇番土地の所有者であつた坂井源八に対する事前の立会通告がなかつただけでなく、源八及びその代理人の現地立会もなかつたことなどを理由として本件境界査定処分は無効であると主張するが、<証拠略>によると、本件境界査定に際し縫道石国有林に介在する民有地を所有していた坂井才次郎、長谷川勝之助に対しては事前の境界査定立会通告書等が発せられて適法に立会の機会が与えられていたことが認められ、これに反する証拠はない。右事実からすると、本件境界査定処分に際し一三〇番土地の所有者であつた坂井源八に対しても事前の境界査定立会通告書が発せられてその立会の機会が与えられていたものと推認でき、他に右推認を左右するに足りる事実関係も窺えないから、この点に関し本件境界処分には何らの瑕疵もなかつたものというべきである。

その他、原告会社らが本件境界査定処分の無効事由として主張するところのものは、いずれもこれを認めるに足りる証拠もなく、原告会社らの単なる憶測の域を出ないものと言わざるを得ないから採用の限りではない。

四  原告会社らの主張について

ところで、原告会社らは本件土地は一三〇番土地であると主張し、その主たる根拠を青森地方法務局大間出張所備付の公図(<証拠略>)及び佐井村備付の字限図(<証拠略>)に求めているが、右主張は次の1ないし3に照らし採用することができない。

1  公図は地租徴収の基礎資料とする目的で土地の位置、形状の概略を把握するために作成されたものであつて、不動産取引の安全を図るためのものではないから、その性質上現地復元性に乏しく、ことに山林、原野等かつて二類地とされたものに関する公図は、地形の複雑さと測量の困難から実測に基づいて作成されたものではなく、山林等の大体の形状と区画をごく大まかに図示したものにすぎないから、そもそもその正確性には多大の疑問があるうえ、原告会社ら主張の右公図等にはこれを現地に復元する手掛りが全く記載されていない(原告会社らは、現地における牛滝川河口から石山沢までの方位、距離と右公図等に記載された牛滝川河口から一三〇番土地東側の沢までの方位、距離がほとんど一致しているとして右沢を石山沢であると主張するが、公図はその作成の沿革、目的等からして方位、距離等定量的な面において不正確であることは公知の事実であるから、単に現地と公図における牛滝川河口からの方位、距離が一致したからといつて、それのみで右沢を石山沢であると断ずることはできない)。

2  本件土地が一三〇番土地であると考えるには次のような不合理が存する。

すなわち、

(一) <証拠略>によると、一三〇番土地の元の所有者であつた先代坂井源八は明治二七年に右土地を同番一及び二の二筆の土地に分筆したこと、その際実施された測量の結果分筆前の一三〇番土地の面積は三町一反八畝二歩と表示されていることが認められ、これに反する証拠はない。

ところで、原告会社らが主張する一三〇番土地の実測面積は一八四・七二九八ヘクタール、被告国が主張する反訴係争地の実測面積は一五八・二八ヘクタールであつて、明治二七年の右実測面積の約五〇ないし六〇倍にも及んでおり、この面積の差異は明治時代の測量技術を考慮しても余りに大きく、右差異の存在を肯認しうるような特段の事情も窺知されない以上、同一の土地とは認め難い。

(二) 右分筆届添付の図面によると、一三〇番土地の東側には「岐小川」と表示された沢が存し、右「岐小川」は一三〇番土地の南端においてさらに小さな沢と合流する一方、同土地の北側に存する道路と交差する付近においては他の沢と合流することを窺わせる記載がないことが認められるが、他方、<証拠略>によると、本件土地の東側に存する石山沢は同土地の南端で小さな沢と合流していることはないうえ、同土地北側の道路と交差する付近においては牛滝部落周辺で最大の河川である牛滝川本流と合流していることが認められるから、右図面と本件土地付近の状況とは重要な部分で齟齬が存する。

3  前記明治三六年に実施された境界査定処分及びこれに基づく境界査定簿(<証拠略>)、境界査定図(<証拠略>)によると、一三〇番土地は本訴係争地より相当北側に離れた堂ノ沢の上流部、通称ツッコシ街道ぞいの土地(いわゆる堂ノ上の土地)であると認められる。

さらに、一三〇番土地の元の所有者であつた坂井源八らも右堂ノ沢の土地が一三〇番土地であると認識していたことが認められる。すなわち、<証拠略>を総合すると、坂井源八(襲名前の良吉)は昭和三四年ころ一三〇番土地上の立木を田中由市に売渡し、右田中は同地において伐採した立木で炭を焼いたが、その炭竈の跡が右堂ノ上の土地に存すること、右源八は昭和三五年六月、一三〇番一土地を同番一、三に、一三〇番二土地を同番二、四に各分筆のうえ、同番三、四の土地を中西幸一に売渡したが、その際源八の次男である坂井弘は右中西に対し一三〇番土地として堂ノ上の土地を案内指示したこと、一三〇番土地に隣接する字牛滝川目一二七番土地の所有者である坂井文雄は一二七番土地は本件土地付近ではなく、堂ノ上にあるとしてこれを代々管理してきたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

五  以上説示したところによると、本件土地(本訴係争地、反訴係争地)は被告国が所有する縫道石国有林一二七林班であると認められる。

そして、原告会社及び反訴被告斉藤がこれを争つていることは当事者間に争いがない。従つて、被告国の反訴請求は理由がある。

他方、前記説示の次第により、原告会社の本訴請求、参加被告田口の参加請求はいずれもその余の点を判断するまでもなく理由がない。

第二参加原告沢田の参加の訴について

参加原告沢田の本件参加の訴は、原告会社、被告国及び参加被告田口との間で本訴係争地及びその地上立木の所有権が同参加原告にあることの確認を求める所有権確認請求の訴である。従つて、右参加の訴における訴訟物の価額は本訴係争地の価額及びその地上立木の価額を合算したものであるというべきところ、本件記録に編綴された佐井村長作成の土地評価額通知書及び被告国作成の昭和五九年八月二日付上申書によると、右参加の訴提起時(昭和五四年五月)の右訴訟物の価額は六億五〇〇八万九七三四円であると認められ、他に右認定に反する証拠はない。

しかるに、参加原告沢田は本件参加の訴提起に際し本訴係争地の土地価額に対応する印紙しか貼用していなかつたので、当裁判所は昭和五九年一〇月一九日(更正決定は同年一一月一二日)に決定送達の日から二週間以内に独立当事者参加申立書に訴訟物の価額六億五〇〇八万九七三四円に対する不足貼用印紙三二五万七六〇〇円(同年一一月一二日に三二五万二四〇〇円と更正)の貼用を命ずる決定をし、右決定は昭和五九年一〇月二四日(更正決定の送達は同年一一月一四日)参加原告沢田訴訟代理人に送達されたが、同参加原告はこれに応じない。

よつて、参加原告沢田の本件参加の訴は不適法である。

第三結論

以上のとおり、原告会社の本訴請求、参加被告田口の参加請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、被告国の反訴請求は理由があるから認容し、参加原告沢田の本件参加の訴は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項、九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤清實 稲田龍樹 小池勝雅)

目録 (一)

1 青森県下北郡佐井村大字長後字牛滝川目一三〇番三

山林 五三六八平方メートル

2 同所一三〇番四

山林 一〇四四二平方メートル

(ただし、別紙図面(一)、(二)表示のとおり)

目録 (二)

青森県下北郡佐井村大字長後字縫道石国有林一二七林班

実測面積 一五八・二八ヘクタール

(ただし、別紙図画(三)表示のとおり。同図面の1ないし142((58補を除く))の各点を経て1に順次直線で結んだ線によつて囲まれた部分。別紙測量成果一覧表のとおり)

別紙図面(一)、(二)、(三) <略>

別紙測量成果一覧表 <略>

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